※「渺渺録」の仮組です
※長いです
































































日本郵船が『日本郵船戦時船史』を編纂する1971年の逡巡と追想と、そこから広がる企業みんなの昔話。
Company & Organization Gijinka Count of Life “Remembrance and Separation” So Far from the Sea

びょうびょう【渺渺】
びょうびょう-ろく【渺渺録】あの戦争、そこにあった事象、またそれに至るまでの長い行い、逡巡、翼賛、利益と損失。その昔話、1960-70年からの回顧の物語。


★今まで描いた切れ端を通しにしたページ ※長いです

※準備中
天洋丸
地洋丸
春洋丸
日本郵船のサンフランシスコ航路の客船。太平洋の女王として名高い。1928年進水。本邦の設計技術も発達しつつあった中、いわゆる欧式の内装であったために一部から批判を呼び「国辱船」論争にまで発展した。この後の船は、日本式の内装を模索していくことになる。
就航後は日米を結ぶ。香港での座礁、イギリスによる臨検が問題となった浅間丸事件を経て太平洋戦争を迎えた。1941年海軍に徴傭され輸送船となる。1944年雷撃(米潜の魚雷攻撃)により戦没。
同社の大型客船として貨客船の時代を支えた花形の船であった。
▼おしとやかな令嬢。お嬢さま。輸送船時代には若干たくましくなり、若干酒乱気味である。
龍田丸
秩父丸/鎌倉丸
氷川丸
日枝丸
平安丸
新田丸/冲鷹
八幡丸/雲鷹
春日丸/大鷹
橿原丸/隼鷹
出雲丸/飛鷹
あるぜんちな丸/海鷹
ぶら志゛る丸/ぶらじる丸
シャルンホルスト/神鷹
清澄丸
金剛丸
大阪商船・アフリカ航路用の船として設計された報国丸級貨客船の一番船。大阪商船の船は行き先を名前に取ることが多かったが、本船は当時の時勢らしい名前となっている。1939年進水。優秀船舶建造助成施設による助成を受けている。
遠航回数も多くないまま対外情勢の悪化により近海の航路である大連航路(大阪-大連)へと移る。1941年徴傭。改装され特設巡洋艦となる。特設巡洋艦として施された武装を隠して害のない民間商船を装い敵艦船へと近づき、拿捕、適宜撃沈する任務を負っていた。南太平洋・インド洋にて通商破壊を行ったが、戦闘中に被弾、戦没した。
▼苦労性気味の長兄。特設巡洋艦として竣工した弟(元妹)には振り回されがち。品が良いお坊ちゃまだが、時々大阪弁で汚く悪態をついているさまが見受けられる。
報国丸級貨客船の2番船。優秀貨客船としてスイートルームはじめ贅を凝らした内装が施されたが、1941年8月31日の竣工の次の日である9月1日に日本海軍に徴傭され、商業航海に就くことのないまま特設巡洋艦となる。
太平洋戦争開戦後は報国丸と戦隊を組み南太平洋・インド洋にて通商破壊を行うが、報国丸が戦没した海戦をもって通商破壊の任務を解かれる。のちは、姉妹船・護国丸や清澄丸などと共に輸送任務を主とし、船種もあとから特設運送船とされる。1944年トラック空襲により、戦没。
▼竣工前は女性の姿だった。特設艦船以後、男性のうつしみをしている。軍隊において男根主義的な面があり、特設運送船時代にもいまだ特設巡洋艦の身分と通商破壊任務に固執していた。軽薄な態度が目立つがそれも本人なりの処世術であった。報国丸より長身で美貌。報国丸からは「弟」、護国丸からは時代を一貫して「姉さん」と呼ばれている。
報国丸級貨客船の3番船。輸送任務を主とした。当初の名前は「興国丸」であった。
すでに貨客船として商業航路に就くことが難しかったために、上2隻と違い、一部内装などを簡略化されて竣工。そののちは輸送任務に就く。1944年被雷、戦没。
▼兄2隻とは美貌がおおきく劣る。その容貌をコンプレックスに思う反面、船は今持つその身のみを価値と思うべきだという信念を持つ(つまり愛国丸に屈折した愛情と侮蔑意識を持っている)。
黒龍丸
大阪商船の大連航路(日満連絡船)用の黒龍丸級貨客船2番船。1937年4月27日進水。進水式の予定時刻より4時間早くに勝手に滑り出し、進水してしまうというトラブルがあった。大阪商船の社長は「母体を出るのが待ち切れずお産が早かったのだからお目出度いことではないか」と長崎造船所を許したとのこと。和辻春樹設計によるスマートな船体と瀟洒な内装が評判だった。
1943年ほどまでは貨客船として航路にあった。1944年12月、陸軍の輸送船としてマニラへ貨物と将兵を輸送。復路にて付近の日本民間人・遭難船員・捕虜らを乗せて航行中に航空機による爆撃にあい、戦没。鴨緑丸の旅客の定員は約800人(+乗組員)であったが復路時には3500人を乗せていた。鴨緑丸に過密状態で乗っていた捕虜はこの爆撃と、その後日本へ行くまでの道行、日本の収容所での劣悪な環境や虐待などで多数死亡したため、戦後に戦争犯罪として問題となった。鴨緑丸の名は「地獄船」(劣悪な環境下にある輸送船)の代表格として知られている。
▼末っ子気質(大連航路に実際に就航した最終船型であり2番船)。好奇心旺盛で騒がしいが憎めない。うつくしい黒髪と黒目が印象的。趣味道楽が楽器演奏。
三池丸
安芸丸
阿波丸
まにら丸
赤城丸
粟田丸
能代丸
浄宝縷丸
ばいかる丸
橘丸
香取丸
帝洋丸
せりあ丸
りおで志”ゃねろ丸
興安丸
濱江丸
コンテ・ヴェルデ
オプテンノール/天応丸/第二氷川丸
第二十三日東丸
艦艇
三笠
矢矧(初代)
金剛
比叡
榛名
霧島
扶桑
山城
伊勢
日向
長門
陸奥
大和
武蔵
鳳翔
龍驤
赤城
加賀
土佐
飛龍
蒼龍
翔鶴
瑞鶴
祥鳳
高雄
愛宕
占守
御蔵
千振
明石
間宮
宗谷
あきつ丸
神州丸
摩耶丸
玉津丸
吉備津丸
カテゴリー:1-1艦船/艦船擬人化
※転載禁止/Do not repost. night watch

その夜、人間たちが黒の装いをして、互い互いに挨拶を交わしあうさまを彼女は見ていた。さざめくように話す情景になぜか心が休まらない。これもあの男の一つの角出であり、あの男への祝福なのだ、と彼女は思った。
葬式の会場は豪奢な造りだった。夜の灯りが壁色に映えて妙に艶やかだった。そして豪華な食事の大盤振る舞いと来た。人間たちの密かな興奮は、なお一層彼女の心の裡を荒立たせた。
彼女は人間の葬式と結婚式の区別がいまだにつかない(黒白と赤白の装いの何が違うというのだろう?)。悲しむべきときと喜ぶべきときの違いだろうか。けれど人間たちは葬式でも結婚式でも、いやいつだって喜んでは悲しんで、泣いては怒っているではないか。彼らは生きるのに忙しそうで、死ぬのになお急いでいる。そんな人間たちを、彼女はほとほと下らないと思っていた。人間への共感の素養に乏しい、ただの一企業の現し身であった。
この葬式の主役が主役なだけに、式中には予期せぬ事件や暴動、妨害が起きてもおかしくはないと思えた。それでも葬式は無事に何事もなく進行している。
人びとはささやかに慎ましげに、けれど油断なく会場を見渡し、旧知の同業者と迎えるべき商売相手を探し出しては、お悔やみの挨拶を交わす。ついでに(ひどくささやかに、また流れるように)語られるは、わが社の輝かしき躍進や扱う新商品やその商売相手を探していること――ここは数夜限りの特殊な社交界なのだ。主役がすでに亡いだけで。
財界の政界の、日本中の多くの重役、重要人たちがこの場へと駆けつけた。貧乏人たちは場の外にいて葬列を仰ぎ見る。その死を弔うために。ついでに、この死者の周りには常にお金と施しがあったので。はてさて、この内に心の底からお悔やみを申し上げる人間はいくばくなのか……と彼女は思った。勿論人間たちを責めるつもりは毛程もない。私もそのうちの一人だ、というのが彼女の偽らざる気持ちだった。そしてこの死者も天国あるいは地獄あるいは煉獄でそんな皆を嗤っているに違いない。あれはそういう男だった。
あの男を思い出せば思い出すほど、会場の人間たちの喧騒が不快だった。まるで濡れた服が体に張りつくようなじっとりとした嫌な感じがした。彼女はひっそりとその場を抜け、中庭へと出た。天高い夜空が、一人の彼女を孤独にさせた。
煙草に火をつける。
あの男は彼女がいつでも煙草を吸うことに不満そうだったが、止めさせたことはなかった。彼女が女の姿を持つという事実と、彼女が明治日本きっての大海運会社――男の持ちうるいちばんの財産――であること、その両者の板ばさみに悩まされていた。
お前が男だったらな、というのがあの人間の口癖だったし、彼女自身もそう願わなかったといえば、嘘になる。たとえ喫煙ができても、男の聖域かつ牙城たる喫煙室に招かれると居心地が悪かったし、男たちだって居心地が悪そうだった。そのたびに我は人でも女でもなく企業である、と嘯いたものだった。彼女は共感性に乏しく、人間たちの居心地の悪さなど気には留めなかったが、それでもそれは惨めな虚栄の一つになっている。
人間の器がこうも桎梏たり得るとは!
ゆっくりと煙を吐き出し、荼毘の煙と焼香の煙と煙草の煙の類似を考えていた。この煙が天まで届くと思うとこれも愉快なご焼香だが、やはりあの男が安寧の場所にいるとは相思えない。あの男は多くの人間を儲からせては破綻させてきた。人間を幸福にさせたが不幸にもさせた。彼女を創りあげた。企業として。女の器として。そんな彼がどうして安寧な眠りを得られよう。
それでも、死ねば義務からは逃げきれる。その事実に呆然とし、彼女はひとり残された怒りに駆られた。海坊主め、あんたが私を創ったんだぞ。そしてこの現状を作り上げた。あんたは死んだが、私だって数年持つかわからない。あんたの愛した会社と船と社員と金はどうなるんだ。本当に船を燃やし、私に後始末でもつけろというのか。
全く気に食わない。
「うわ、」
と、彼女の後ろから声がした。夜の闇から現れたのはなんと、彼女の唯一の商売敵たる共同運輸会社であった。
いつもの安物で粗野な男物の和服ではなく、洒落た男物の喪服のスーツを着ている。洒落ているのは服だけで、鈍感そうな表情と四方八方に飛んだ髪毛はいつもと変わらない。
「なんで……貴様がここに居るんだ」
「私だって知らんさ。たぶん偵察だ偵察。渋沢さんに連れてこられた」
と相変わらず能天気な顔をしている共同運輸に、この世は馬鹿な人間と馬鹿な会社ばかりだと彼女は思った。あの男の葬儀にぬけぬけとやって来た渋沢も共同運輸も、とんだ阿呆だ。ただの間抜けだ。
一歩こちらに近づいた共同運輸に、一歩引きさがった彼女は舌打ち混じりに言い放った。
「気安く近寄るな庶民が」
「地下浪人上がりが調子乗るなよ馬鹿!……や、おまえ、泣いてんのか?」
泣いているわけなかろう、と呟いた。彼女の声はわずか震えていた。
共同運輸はにやにや下品に笑った。
「いいもん見た。死人の顔も見れてないが腹いっぱいだ。帰ろ帰ろ」
「帰れ」
「帰るさ。また来る。こんな葬式ならいつあっても良い。月に十回は欲しい」
「帰りやがれ!!」
それは鼻声で、喉が詰った、みっともない大声だった。だから共同運輸以上に驚いたのは彼女自身の方だった。おまえ、と呟いた共同運輸は一瞬呆けた顔を晒し、ばつの悪いような表情をしたあと、彼女の顔を下から掬いあげるようにそうっと見上げた。彼女の様子をうかがっている。彼女は共同運輸より数寸は背が高いのだ。人間の現し身を比べ、わずかでも共同運輸を見下げることができるのが彼女の密かな楽しみだった。愚かなことだ、と自身でもわかっていた。
私たちのひとのすがたになど意味はないのに。
三菱蒸気船会社として日本国郵便汽船会社を下してからというもの、彼女は一社一強として日本海運を牽引してきた。それが独占と言われようが強欲と罵られようが変わらなかった。むしろその誹りと軽蔑の視線はひどく心地よかった。口汚く罵る相手の瞳には、同時に常に畏怖と卑屈とがあったからだ。栄光これより大なるはなかったし、それを積極的に快楽として、彼女は企業を生きてきた。
箸が転んでも面白い、もとい箸が転んでも儲かるような面白い海を独占していた彼女の前に現れたのが、今この顔を見上げる共同運輸会社であった。打倒三菱を掲げて生まれた会社であり、初めから彼女の敵たるものとして創られた、愚かな海運企業。
両社互いに船が並べば一歩も航路を譲らずにぶつかるに任せた。彼女の営業する横浜・神戸間の運賃は五円五十銭だったものが、一円五十銭となり一円となり七十五銭となり五十五銭となり二十五銭に景品付きとなる始末。人間たちは愚かだ、と思いながらも値段を繰り下げることに一番熱心だったのが彼女自身だったのだからこの世は阿呆だらけだ。もちろん利潤など生まれず、急激に利益は損失し、両社とも互いが互いを泥沼に引っ張る瀕死状態へとあっけなく転落していった。
「……あのな、こんなうわさ話知ってるか。お上が私たちの争いに介入するんだって」
「……知っている。絶対に嫌だ。汚らしい」
そう吐き捨てた彼女は煙草を捨て、靴で何度も執拗にもみ消した。
「私だって嫌だわい!でも簡単に死ぬわけにはいかないだろ?人間みたいにさ。お国の海と船はどうすんのさ」
という共同運輸の言葉に、彼女はふと胸を突かれた。冷たい刃で胸を割かれたような気持ちになった。私を国賊というのなら私の船を残らず遠州灘に集めて焼き払い財産を自由党に寄付しようぞ、というあの人間の言葉を思い出したからだ。
あの男は結局は日本国の海運を想っていた、だからなおさら政府とその先鋒たる共同運輸を憎んでいた。あの男は海運業を独占していたが、政府がただの政略上の問題で三菱を潰しにかかったのもまた事実であった。その思いが船を焼き払うべし、という悲惨な言葉に繋がり、死の床ですら競争を挑みて敵におくるるなかれと遺言を残して逝ったのだ。人間は阿呆、世は馬鹿ばかり、私も社員も阿呆で政府の人間も阿呆だ。こいつも阿呆のはずなのに、お国の海と船はどうすんのさ、というひどく柔い土着じみた女言葉は、政治や企業人のそれとはほど遠く響き、だからなおさら彼女の心を打った。
言葉を無くした彼女に、共同運輸は言った。
「郵便汽船三菱会社、あんたはどう思うのさ」
私は、と彼女は言いかけて、黙った。
やめたかった。こんなふざけた現状をどうにかしたかった。頑張って得た船も焼きたくなかったし、財産だって保有していたかった。なによりあの男の残したものをむざむざと捨てたくなかった。たとえそこが地獄だろうがそこで嗤っていてほしかった。まるでいじらしい、乙女がよき男に向けるような感情、まったく人間じみていることに気づき、ただただ自己嫌悪に陥り恥じ入った。私は、あの男が憎くなかったのだ。きっと憎くなかったのだ。すべてがまったくの茶番だった。この茶番の主役の名を岩崎弥太郎という。